Troubleshooting CASE:04
労働審判を提起された場合
労働審判を提起された場合
1 労働審判とは
労働審判とは、最近の個別的労働関係に関する紛争の増加傾向に対処するために、迅速かつ適切に解決を図ることを目的に制定された手続です。
労働審判では、労働審判官(裁判官)1名と、労働関係に関する専門的知見を有する労働審判員2名で構成された労働審判委員会が事件を審理します。
原則として3回以内の期日で、調停(話し合い)による解決が試みられます。調停による解決ができない場合には、労働審判委員会が労働審判を行い、解決を図ります。
労働審判制度は、労働紛争の迅速な解決を図ることを目的とした制度ですから、手続が非常に早く進みます。
したがって、早めの対応が大切です。
労働審判手続の流れ
2 労働審判員とは
労働審判を担当する労働審判員とは、労働関係に関する専門的な知識経験を有する民間人の中から最高裁判所があらかじめ任命した方です(任期は2年)。
所属する地方裁判所が決められており、個別の案件ごとに裁判所から指定されて労働審判委員会の構成員になります。
労働審判員は中立公正な立場とされます。
また、労働審判員は、労働者側1名、使用者側1名がそれぞれ指名されますが、労働審判期日でも2人の労働審判員が労働者側・使用者側のどちらかは分かりません。
実際の労働審判では、裁判官である労働審判官だけでなく、労働審判員からも当事者双方に対して適宜質問されます。
労働審判を迎える際には、労働審判官や労働審判員からの質問も想定して臨む必要があります。
3 労働審判が適当な事件とは
労働審判手続の対象は、個別労働関係紛争とされています。
具体的には、解雇・配置転換・降格処分・賃金・退職金・解雇予告手当の支払を求める紛争などがこれにあたります。
したがいまして、行政事件や使用者と労働者との間の単なる金銭の貸借、労働組合と使用者との間の集団的労働関係紛争、個人(社長や上司)を相手とする紛争は、労働審判の対象とはなりません。
労働審判の対象外となる紛争について労働審判を申し立てたとしても、不適法として却下されます。
4 労働審判を申し立てる裁判所
労働審判を申し立てる裁判所は、以下のようになります。
- 相手方の住所、居所、営業所もしくは事務所の所在地を管轄する地方裁判所
- 個別労働関係紛争が生じた労働者と事業者との間の労働関係に基づいてこの労働者が現に就業しもしくは最後に就業した当該事業主の事業所の所在地を管轄する地方裁判所
- 当事者が合意で定める地方裁判所
1〜3以外の裁判所に対して労働審判を申し立て、相手方がこれに応じたとしても、当該裁判所では審理されません(応訴管轄なし)。
5 労働審判のスケジュール
労働審判制度は、労働紛争の迅速な解決を図ることを目的とした制度ですから、手続が非常に早く進みます。
労働審判の申し立てがあると、労働審判官は、原則として申し立てがされた日から40日以内に第1回期日の指定をして、事件関係者の呼び出しをするとともに、相手方に対して答弁書の提出期限を定めます(原則として第1回期日の10日前程度)。
そして、相手方は、指定された提出期限までに答弁書を用意しなければなりません。
通常の裁判では、第1回期日の答弁書は、申立人の主張を認めるかどうかについてだけ回答する程度でも足りるのですが、労働審判では第1回期日から充実した審理を実現するために、反論の具体的な理由や証拠を提出しなければなりません。申立人側は十分に用意した上で申し立てをすればよいのですが、相手方からすればごく限られた短時間で用意をしなければならないため、非常に負担の大きい手続といえます。
6 労働審判の審理について
労働審判では、労働審判委員会が第1回期日で当事者の陳述を聞いて争点及び証拠の整理を行い、必要な証拠調べを行ないます。
労働審判手続は原則として3回以内の期日で審理を行ないますが、原則として第2回期日が終了するまでに主張及び証拠の提出を終えなければなりません。
したがって、実質的な主張・証拠の提出は第2回期日まで、しかも多くの場合は第1回期日で主な主張・立証が行なわれるため、第1回期日までにどれだけ十分な用意ができるかが重要になってきます。
労働審判委員会は、労働審判手続の過程で調停の成立の見込みがある場合には、審理の終結に至るまでに調停を行なうことができます。調停において当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときには、その記載は裁判上の和解と同一の効力を生じます。
なお、労働審判手続の審理は原則として非公開とされていますが、労働審判委員会は相当と認める者の傍聴を許しています。
したがって、会社代表者だけでなく、会社関係者(人事部長等)が同席することも実務上は見受けられます。
7 労働審判に不満があった場合について
労働審判の結果に不満があった場合、労働審判に対し、審判書の送達又は労働審判の告知を受けた日から2週間以内に、裁判所に対して異議の申し立てをすることができます。
労働審判に対して適法な異議の申し立てがあった場合、労働審判はその効力を失い、労働審判手続の申し立てにかかる請求については、当該労働審判が行なわれた際に労働審判事件が係属していた地方裁判所に訴えの提起があったものとみなされます。
また、労働審判委員会が事案の性質に照らし、労働審判手続を行なうことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当ではないとして労働審判事件を終了させた場合についても、労働審判に対する適法な異議申立と同様に訴え提起が擬制されます。
これらの場合も、労働審判手続の申立書等は訴状とみなされます。
但し、その他の記録は訴訟には引き継がれないため、当事者は改めて訴訟において主張書面、証拠書類を提出する必要があります。