Employment
外国人の雇用を検討している企業の方へ
1 改正入管法の背景
日本政府は、外国人労働者受入れ拡大を目指す改正出入国管理法(以下「改正入管法」といいます。)に基づき2019年4月に創設される新在留資格「特定技能」に関する基本方針や分野別の運用方針、外国人全般に対する総合的対応策を閣議などで決定しました。
公的機関や生活インフラの多言語化など、急増する外国人を「生活者」として迎え入れる基盤の整備を国主導で進めるものです(出典:外務省 入管法改正による新しい在留資格特定技能の創設)。
2 在留外国人の増加傾向
現在の日本社会では、少子高齢化に伴う労働力不足が深刻化しており、業種によっては労働力不足による倒産も珍しくなくなってきています。
このような深刻な労働力不足の現状に対応するために、日本政府は積極的に外国人を受け入れる方針を決定し、上記改正入管法を施行しました。
日本には、平成30年末時点において、在留外国人数は273万1093人とされており、前年末に比べ16万9245人(6.6%)増加となり過去最高を更新しています(出典:法務省 平成30年末現在における在留外国人数について)。
今回の改正入管法によって、新たに「特定技能」の在留資格が創設されたことによってさらに在留外国人、そして外国人労働者の増加が見込まれます。
私たちは、外国人の方々とともに業務に従事し、企業を運営するとともに、日本社会を構築していくことが求められます。
3 外国人雇用の状況について
(1)外国人労働者の推移
このような状況にある中、日本における外国人労働者の数も、年々増加傾向にあります。
厚生労働省が発表した統計データによれば、外国人労働者の推移は、以下のとおりです。
- 外国人労働者数は1,460,463人で、前年同期比181,793人、14.2%の増加(平成19年に届出が義務化されて以降、過去最高を更新)
- 外国人労働者を雇用する事業所数は216,348か所で、前年同期比21,753か所、11.2%の増加(平成19年に届出が義務化されて以降、過去最高を更新)
- 国籍別では、中国が最も多く389,117人(外国人労働者数全体の26.6%)。次いでベトナム316,840人(同21.7%)、フィリピン164,006人(同11.2%)の順。対前年伸び率は、ベトナム(31.9%)、インドネシア(21.7%)、ネパール(18.0%)が高い。
- 在留資格別では、「専門的・技術的分野の在留資格」の労働者数が276,770人で、前年同期比38,358人、16.1%の増加。また、永住者や日本人の配偶者など「身分に基づく在留資格」の労働者数は495,668人で、前年同期比36,536人、8.0%の増加などとなっている。
(2)外国人雇用が増加している背景
このように、外国人労働者数は、過去最高を更新しています。
外国人雇用が増加している背景には、以下の事情があると考えられています。
- 政府が推進している高度外国人材や留学生の受入れが進んでいること
- 雇用情勢の改善が着実に進み、「永住者」や「日本人の配偶者」等の身分に基づく在留資格の方々の就労が進んでいること
- 技能実習制度の活用により技能実習生の受入れが進んでいること
これらの外国人雇用が増加する背景は、今後も継続していくことが予想されることから、引き続き外国人雇用は増加するものと考えられます。
(3)外国人雇用事業所の規模について
なお、外国人雇用事業所の規模をみると、「30人未満事業所」が最も多く、事業所全体の58.8%、外国人労働者全体の34.7%を占めていることがわかります。
統計データからは、むしろ中小企業こそ、外国人雇用に積極的に取り組んでいることがうかがわれます。
中小企業は、人手不足の問題がより深刻であり、外国人雇用に積極的に着手することで、人手不足を解消したいというニーズがあると考えられます。
4 茨城県における外国人雇用の状況について
なお、茨城県内における外国人雇用事業所数及び外国人労働者数は、以下のとおりです(いずれも平成30年10月末日時点)。
外国人雇用事業所数:5857
外国人労働者数:35,062人
【出典:厚生労働省・別添3「外国人雇用状況」の届出状況表一覧(平成30年10月末現在)】
茨城県内の外国人雇用事業所数及び外国人労働者数は、全国的にみても有数の数となっており、北関東圏内に位置する栃木県(外国人雇用事業所数:2838、外国人労働者数:24,016人)や群馬県(外国人雇用事業所数:3887、外国人労働者数:34,526人)よりも多いことがわかります。
茨城県内では、すでに外国人雇用を全国に比しても積極的に展開していることがうかがわれます。
5 企業が外国人を雇用することの3つのメリット
このように、茨城県も含め、日本全国で外国人雇用は積極的に拡大しています。企業が外国人雇用を進めるメリットは、以下の3つを挙げることができます。
(1)労働力の確保
外国人雇用を進めるもっとも直接的なメリットは、労働力を確保できることにあります。
日本人労働者の採用が進まない業種や中小企業では、外国人労働者を雇用することで、不足する労働力を確保できることが期待できます。
(2)優秀な人材の確保
外国人雇用を進めることによって、優秀な人材を確保することが期待できます。
優秀な人材の確保は、外国人労働者に限らず、日本人労働者を対象としても当てはまります。
外国人労働者が定着している職場は、異文化と日常的に接する環境であり、優秀な日本人労働者にとっても刺激的・魅力的な環境といえます。
外国人労働者が定着し、異文化も馴染むことができる職場環境を実現することで、異文化と接触することを求める優秀な日本人労働者にも接触する機会を増やすことが期待できます。
(3)グローバル化への対応
外国人雇用を進めることで、外国人労働者を通じて、自社が海外展開をするなど、グローバル化へ対応するための機会をつくることが期待できます。
6 企業が外国人を雇用することの3つのデメリット
(1)コンプライアンスリスク
一方、改正入管法が外国人労働者を受け入れやすくする施策を講じている反面、不適切な受け入れや外国人労働者への処遇に対しては、厳罰に取り締まる内容となっています。
わたしたちが今後も持続可能な成長をしながら企業運営を行っていくためには、外国人労働者との共生は選択肢の一つとして考えなければならない一方、安易な外国人労働者への依存は、かえってコンプライアンスリスクともなりかねません。
例えば、近時では、入管法違反事例として、以下のようなものが挙げられます。
大手ラーメンチェーン店の事例
大手ラーメンチェーン店において、ベトナムや中国からの留学生を、出入国管理法が定める週28時間を超えて働かせた疑いがあるとして、代表取締役や店長らを、出入国管理法違反(不法就労助長)の疑いで書類送検されました。
大手製造会社の事例
大手製造会社が、外国人技能実習生に対し、技能を学べない単純作業をさせ、技能実習適正化法に違反したとして、出入国在留管理庁及び厚生労働省から改善命令を出されました。
入管庁によると、上記会社は、実習生約40人に対し、配電盤や制御盤の組み立てを学ばせる計画になっていたにもかかわらず、実際は鉄道車両の窓枠取り付けなどの単純作業をさせていたとのことです。
これらの入管法等違反を犯すと、外国人労働者を受け入れている企業が行政責任等を問われることはもちろんのこと、外国人労働者の在留資格にも深刻な影響を及ぼすおそれがあります。
(2)レピュテーションリスク
また、当然のことながら、企業のレピュテーションリスクも招くことになります。
したがって、外国人労働者の雇用を検討したり、またすでに実施したりしているのであれば、果たして入管法の対応は適切に講じられているかどうか考える必要があります。
(3)管理コストの増大
一方、このようなコンプライアンスリスクやレピュテーションリスクがありながら、外国人を雇用することによって、人件費を節約できるわけではありません。
外国人を雇用する際の人件費を日本人労働者以上に引き下げることは違法とされるおそれもあります。外国人労働者に対しても、日本人労働者を雇用する場合と同様、労働基準法や労働契約法等、各種労働法令を遵守しなければなりません。
また、入管法では、外国人を雇用する際には、様々な届出規制等を負担することになります。コンプライアンス上、問題のないようにしながら外国人を雇用するためには、日本人労働者を雇用する以上に、かえって人件費や管理コストは増大するということも理解しておく必要があります。
7 当事務所の外国人労務管理サポート
外国人雇用を検討する企業の皆様には、外国人雇用に伴うデメリットを理解した上で、外国人雇用を検討・実施していただく必要があります。
外国人雇用に伴うデメリットを紹介しましたが、一方で外国人雇用を実施・定着させることは、自社にとっての労働力を確保するだけでなく、自社の職場環境を魅力あるものに活性化させ、優秀な外国人労働者だけでなく日本人労働者の雇用にもつながることや、グローバル展開を可能として自社だけでなくコミュニティ全体を活性化することにもつながります。
外国人雇用には、入管法や労働法等、様々なコンプライアンス上の規制をチェックしなければならないハードルがありますが、これらのハードルを超えるだけの価値もあります。
私たちは、外国人雇用に伴うコンプライアンスリスクマネジメントを行い、外国人労働者の採用から定着・日々の労務管理まで、入管業務だけでなく、法務管理・労務管理に関するサポートをします。
外国人雇用を検討する企業の皆様が、積極的な事業展開を行い、自社にとっても、外国人労働者にとっても、またコミュニティにとっても持続的に成長できる道筋をつくるお手伝いができれば、望外の喜びです。