Employment
外国人を雇用している企業の方へ
外国人労働者をすでに雇用している事業主にとって、外国人労働者の労務管理が主な関心事項となります。
外国人労働者の労務管理に不備があった場合には、労基法違反や入管法違反等となり、事業主自体もコンプライアンスリスクに晒されるだけでなく、外国人労働者の在留資格にも深刻な影響を及ぼすおそれがあります。
外国人雇用を進め、すでに外国人労働者を雇用している事業主が、労務管理を検討する上で留意すべき事項を整理しましたので、ご参照ください。
1 外国人労働者労務管理チェックリスト
外国人労働者の労務管理上の留意点は、以下のチェックリストになります。自社の外国人労働者の労務管理上、チェックリストをご参照いただき、当てはまるものがないかご確認ください。
カテゴリー | チェック項目 |
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在留資格の管理 |
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外国人雇用状況の届出 |
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労働条件の確保 |
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安全衛生の確保 |
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社会保険等の適用 |
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教育訓練 |
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福利厚生 |
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労働者派遣 |
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請負 |
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労働契約の終了 |
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2 外国人労働者の労務管理における4つのポイント
1 特定技能外国人の受入れ機関が満たすべき基準として要求される
事業主は、外国人労働者の労務管理を検討する際には、適法な労務管理が、特定技能外国人の受入れ機関が満たすべき基準として要求されていることに留意する必要があります。
改正入管法は、介護などの今後不足することが予測されている労働力不足を解消するために、新しい在留資格である「特定技能1号」「特定技能2号」を新設しています。
改正入管法では、「特定技能1号」「特定技能2号」、そして「技能実習生」の確保に重点を置き、これらの外国人労働者を雇い入れる際には、快適な職場環境を実現・維持していくことを受入れ機関に要求しています。
なお、受入れ機関(特定技能所属機関)とは、特定技能外国人を実際に受け入れ、支援する事業主・個人事業主等のことをいいます。
受入れ機関(特定技能所属機関)は、外国人材と雇用契約(「特定技能雇用契約」という)を結ぶ必要があります。
特定技能雇用契約では、外国人の報酬額が日本人と同等以上であることを含め以下の基準に適合していることが求められます 。
(参照:公益財団法人 国際人材協力機構 在留資格「特定技能」とは)
受入れ機関が外国人を受け入れるための基準
- 外国人と結ぶ雇用契約(特定技能雇用契約)が適切であること(例:報酬額が日本人と同等以上)
- 受入れ機関自体が適切であること(例:5年以内に出入国・労働法令違反がない)
- 外国人を支援する体制があること(例:外国人が理解できる言語で支援できる)
- 外国人を支援する計画が適切であること
受入れ機関(特定技能所属機関)の義務
- 外国人と結んだ雇用契約を確実に履行すること(例:報酬を適切に支払う)
- 外国人への支援を適切に実施すること(支援については、登録支援機関に委託も可。登録支援機関に全部委託すれば上記③の基準を満たす)
- 出入国在留管理庁への各種届出を行うこと
(注)1〜3を怠ると外国人を受け入れられなくなるほか、出入国在留管理庁から指導、改善命令等を受けることがあります。
このように、外国人労働者を雇用する事業主は、受入れ機関として、適法な労務管理を実施できている必要があります。
2 日本人と外国人の間で待遇面での差を設けない
前記のように、受入れ機関は適法な労務管理を実施しなければなりませんが、そもそも日本人と外国人の間で、待遇面での差を設けることは許されません。
人種による差別の禁止は、憲法でも明記されています(憲法14条1項)。労働関係においても、国籍に基づき異なる取扱いを行う合理的な理由がない限り、外国人に対して、日本人と同様の労働に関する法令が適用されます。
例えば、労働基準法、労働契約法、パートタイム・有期雇用労働法、労働安全衛生法なども、日本人労働者と同様、外国人労働者にも適用されることになります。
特に、労働基準法は、「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。」(労働基準法3条)と明記しており、国籍による待遇差を明示的に禁止しています。
仮に、外国人労働者を雇用することで、日本人労働者よりも安い賃金に抑えることができるという考えがあるのでしたら、大きな誤解ということになります。
外国人労働者を、合理的理由もなく、日本人労働者よりも安い賃金で雇用している場合、労働基準法に抵触し、ひいては受入れ機関としての資格にも影響するおそれがあります。
3 外国人労働者が働きやすい環境の整備
外国人労働者の待遇(賃金等)だけでなく、日常的な就業環境についても、外国人労働者に対しては配慮が必要になる場合があります。
外国人労働者は、日本とは異なる文化圏から集まってくることもあり、日本文化とは異なる価値観を有することから、労働者同士の人間関係に問題が生じるおそれもあります。
事業主としては、外国人労働者の価値観も尊重しながら、外国人労働者と日本人労働者、双方が働きやすい環境を整備することに務めなければなりません。
4 コミュニケーションのとり方
外国人労働者は、日本人労働者に比べ、比較的自己主張するべき点は、はっきりと主張する傾向にあるといわれています。また、日本人労働者が遠慮しがちな、自己の労働条件に関する要望についても、躍踏なく意見を主張する外国人労働者が多いといえます。
外国人労働者とのコミュニケーションの上で重要な点は、あいまいな態度で臨まないことといえます。外国人労働者にとっては、日本人労働者の暖昧な態度が混乱の原因になると指摘されることがあります。
外国人労働者とのコミュニケーションでは、暖昧な表現を避け、態度を明確に示すことが望ましいといえます。
3 外国人労働者の労務管理上の主な留意点
外国人労働者を雇用する事業主は、外国人労働者について、雇用対策法、職業安定法、労働者派遣法、雇用保険法、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法、健康保険法、厚生年金保険法等の労働関係法令及び社会保険関係法令を遵守するとともに、外国人労働者が適正な労働条件及び安全衛生を確保しながら、在留資格の範囲内でその有する能力を有効に発揮しつつ就労できる環境が確保されるよう、この指針で定める事項について、適切な措置を講ずることが求められます(厚生労働省告示第276号「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」)。
具体的には、外国人労働者を雇用する事業主は、以下の措置を講ずることが求められます。
1 適正な労働条件の確保
(1)日本人労働者との均等待遇
事業主は、労働者の国籍を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱いをしてはならないとされます。
(2)労働条件の明示
書面の交付
事業主は、外国人労働者との労働契約の締結に際し、賃金、労働時間等主要な 労働条件について、当該外国人労働者が理解できるようその内容を明らかにした 書面を交付することが求められます。
賃金に関する説明
事業主は、賃金について明示する際には、賃金の決定、計算及び支払の方法等はもとより、これに関連する事項として税金、労働・社会保険料、労使協定に基づく賃金の一部控除の取扱いについても外国人労働者が理解できるよう説明し、 当該外国人労働者に実際に支給する額が明らかとなるよう努めることが求められます。
(3)適正な労働時間の確保
事業主は、法定労働時間の遵守、週休日の確保をはじめ適正な労働時間管理を行うことが求められます。
(4)労働基準法等関係法令の周知
事業主は、労働基準法等関係法令の定めるところによりその内容について周知を 行うこと。その際には、分かりやすい説明書を用いる等外国人労働者の理解を促進 するため必要な配慮をするよう努めることが求められます。
(5)労働者名簿等の調製
事業主は、労働基準法の定めるところにより労働者名簿及び賃金台帳を調製することが求められます。その際には、外国人労働者について、家族の住所その他の緊急時における連絡先を把握しておくよう努めることが求められます。
(6)金品の返還等
事業主は、外国人労働者の旅券等を保管しないようにすること。また、外国人労働者が退職する際には、労働基準法の定めるところにより当該外国人労働者の権利に属する金品を返還することが求められます。また、返還の請求から7日以内に外国人労働者が出国する場合には、出国前に返還することが求められます。
2 安全衛生の確保
(1)安全衛生教育の実施
事業主は、外国人労働者に対し安全衛生教育を実施するに当たっては、当該外国人労働者がその内容を理解できる方法により行うことが求められます。特に、外国人労働者に使用させる機械設備、安全装置又は保護具の使用方法等が確実に理解されるよう留意することが求められます。
(2)労働災害防止のための日本語教育等の実施
事業主は、外国人労働者が労働災害防止のための指示等を理解することができるようにするため、必要な日本語及び基本的な合図等を習得させるよう努めることが求められます。
(3)労働災害防止に関する標識、掲示等
事業主は、事業場内における労働災害防止に関する標識、掲示等について、図解 等の方法を用いる等、外国人労働者がその内容を理解できる方法により行うよう努めることが求められます。
(4)健康診断の実施等
事業主は、労働安全衛生法等の定めるところにより外国人労働者に対して健康診断を実施することが求められます。
その実施に当たっては、健康診断の目的・内容を当該外国人労 働者が理解できる方法により説明するよう努めることが求められます。
また、外国人労働者に対し健康診断の結果に基づく事後措置を実施するときは、健康診断の結果並びに事後措置の必要性及び内容を当該外国人労働者が理解できる方法により説明するよう努めることが求められます。
(5)健康指導及び健康相談の実施
事業主は、産業医、衛生管理者等を活用して外国人労働者に対して健康指導及び健康相談を行うよう努めることが求められます。
(6)労働安全衛生法等関係法令の周知
事業主は、労働安全衛生法等関係法令の定めるところによりその内容についてその周知を行うことが求められます。
その際には、分かりやすい説明書を用いる等外国人労働者の理 解を促進するため必要な配慮をするよう努めることが求められます。
3 雇用保険、労災保険、健康保険及び厚生年金保険の適用
(1)制度の周知及び必要な手続の履行
事業主は、外国人労働者に対し、雇用保険、労災保険、健康保険及び厚生年金保 険(以下「労働・社会保険」という。)に係る法令の内容及び保険給付に係る請求手続等について、雇入れ時に外国人労働者が理解できるよう説明を行うこと等により周知に努めることが求められます。
また、労働・社会保険に係る法令の定めるところに従い、被保険者に該当する外国人労働者に係る適用手続等必要な手続をとることが求められます。
(2)保険給付の請求等についての援助
事業主は、外国人労働者が離職する場合には、外国人労働者本人への雇用保険被保険者離職票の交付等、必要な手続を行うとともに、失業等給付の受給に係る公共職業安定所の窓口の教示その他必要な援助を行うように努めることが求められます。
また、外国人労働者に係る労働災害等が発生した場合には、労災保険給付の請求 その他の手続に関し、外国人労働者からの相談に応ずること、当該手続を代行することその他必要な援助を行うように努めることが求められます。
さらに、厚生年金保険については、その加入期間が6月以上の外国人労働者が帰国する場合、帰国後、加入期間等に応じた脱退一時金の支給を請求し得る旨帰国前に説明するとともに、年金事務所等の関係機関の窓口を教示するよう努めることが求められます。
4 適切な人事管理、教育訓練、福利厚生等
(1)適切な人事管理
事業主は、その雇用する外国人労働者が円滑に職場に適応し、当該職場での評価や処遇に納得しつつ就労することができるよう、職場で求められる資質、能力等の社員像の明確化、職場における円滑なコミュニケーションの前提となる条件の整備、評価・賃金決定、配置等の人事管理に関する運用の透明化等、多様な人材が能力発揮しやすい環境の整備に努めることが求められます。
その際、公共職業安定所の行う雇用管理に係る助言・指導を踏まえ、適切に対応することが求められます。
(2)生活指導等
事業主は、外国人労働者の日本社会への対応の円滑化を図るため、外国人労働者に対して日本語教育及び日本の生活習慣、文化、風習、雇用慣行等について理解を深めるための指導を行うとともに、外国人労働者からの生活上又は職業上の相談に応じるように努めることが求められます。
(3)教育訓練の実施等
事業主は、外国人労働者が、在留資格の範囲内でその能力を有効に発揮しつつ就労することが可能となるよう、教育訓練の実施その他必要な措置を講ずるように務めるとともに、苦情・相談体制の整備、母国語での導入研修の実施等働きやすい職 場環境の整備に努めることが求められます。
(4)福利厚生施設
事業主は、外国人労働者について適切な宿泊の施設を確保するように努めるとともに、給食、医療、教養、文化、体育、レクリエーション等の施設の利用について、外国人労働者にも十分な機会が保障されるように努めることが求められます。
(5)帰国及び在留資格の変更等の援助
- 事業主は、その雇用する外国人労働者の在留期間が満了する場合には、当該外 国人労働者の雇用関係を終了し、帰国のための諸手続の相談その他必要な援助を 行うように努めることが求められます。
- 事業主は、外国人労働者が在留資格を変更しようとするとき又は在留期間の更 新を受けようとするときは、その手続を行うに当たっての勤務時間の配慮その他 必要な援助を行うように努めることが求められます。
5 労働者派遣又は請負を行う事業主に係る留意事項
労働者派遣の形態で外国人労働者を就業させる事業主にあっては、当該外国人労働者が従事する業務の内容、就業の場所、当該外国人労働者を直接指揮命令する者に関する事項等、当該外国人労働者の派遣就業の具体的内容を当該外国人労働者に 明示する、派遣先に対し派遣する外国人労働者の氏名、労働・社会保険の加入の有無を通知する等、労働者派遣法の定めるところに従い、適正な事業運営を行うことが求められます。
また、派遣先は、労働者派遣事業の許可を受けていない者又は届出を行っていない者からは外国人労働者に係る労働者派遣を受けないことが求められます。
請負を行う事業主にあっては、請負契約の名目で実質的に労働者供給事業又は労働者派遣事業を行うことのないよう、職業安定法及び労働者派遣法を遵守することが求められます。
また、請負を行う事業主は、自ら雇用する外国人労働者の就業場所が注文主である他の事業主の事業所内である場合に、当該事業所内で、雇用労務責任者等に人事管理、生活指導等の職務を行わせることが求められます。
6 解雇の予防及び再就職の援助
事業主は、事業規模の縮小等を行おうとするときは、外国人労働者に対して安易な 解雇等を行わないようにするとともに、やむを得ず解雇等を行う場合は、その対象と なる外国人労働者で再就職を希望する者に対して、関連事業主等へのあっせん、教育訓練等の実施・受講あっせん、求人情報の提供等当該外国人労働者の在留資格に応じた再就職が可能となるよう、必要な援助を行うように努めることが求められます。
その際、公共職業安 定所と密接に連携するとともに、公共職業安定所の行う再就職援助に係る助言・指導 を踏まえ、適切に対応することが求められます。